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コラム

新しきパラダイムシフトに向かう覚悟

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 前回は、「CASE(ケース)」について触れましたが、今回は「MaaS(マース)」について触れてみたいと思います(横文字が好きなわけではありません)。
 ご承知のとおり、「MaaS」とは、「mobility as a service」の頭文字をとった語で、直訳すれば、「サービスとしての移動」を指し、ICTを活用してバスや電車、タクシー、飛行機など、自家用車以外のすべての交通手段による移動を、ひとつのサービスで完結させることを指します。具体的には、スマートフォンなどのデバイスでデジタルプラットフォームやアプリなどへのアクセスによって、すべての交通機関のルートや乗り換え情報の検索、チケットの予約や支払い、決済までをワンストップで可能にするシステムを言い、「自家用車を手放すきっかけ」あるいは「都市からの自家用車の解放」という理念を念頭において構想されたものですが…、(先進国の)「少子高齢化時代」、「脱炭素化時代」、「ICT技術の進歩」等の文明論的根拠を背景に、フィンランドのヘルシンキから欧米諸国に急速に思想普及したものの、ここにきて、そのベクトルに懐疑的な見通しが見えてきたという、興味深いレポートが発表され、注目させていただきました(『MaaSの夢と現実』伊藤昌毅 翻訳監修記事 米Bloomberg City lab掲載「The Problem With ‘Mobility as a Service’  David Zipper氏の論考」)
 記事を要約すれば…、❶MaaS定着に有利な市場と言える都市においても住民の支持は限定的である(消費者の嗜好と制度設計にズレがある) ❷MaaSスタートアップ企業の収益見込みに限界があり、採算性に問題がある ❸協力を求めるべき公共交通機関側に抵抗感があり、システムアプリへの参入よりも自社アプリの開発にこそ関心がある、等のネガティブな状況が現実には存在し、その活路として、今後は「個人」をターゲットにしたモノではなく、税制上優遇された、企業の「カンパニーカー(通勤使用車)」に向けたモノとしてビジネスモデルを再構築していこうとする動きがあり、動向が注目される、ということでした。

 このコラム欄で、これまでも指摘させていただいておりますが、今般のコロナ禍の最大の特徴は、「人と人とを分断させようとウイルスが働いていること」で、そのことの影響が様々なビジネス上の「対話する」「集まる」「移動する」という基本的な人間社会の諸行為を停止させ、翻って、真に個人の沈思黙考(内省)をかつてないほどに促している点にあると言えますが、この余波は、近年世界的に拍車化してきていた新しいグローバル経済時代における全産業、全業種(自動車学校業界も当然含む)の『パラダイムシフト』の方向性にブレーキをかけたり、逆に加速化させたりしながら、正負両面におけるなお一層の尖鋭化、または吟味を強いているようでもあります。換言すれば、「beforeコロナ」と「afterコロナ」とでは、何一つとして先例踏襲をそのままの形で受け流していいものなどなく、「すべてのことは一度この機に徹底的に見直し、再構築・再検討のうえ、再出発せよ」と啓示しているように思えてなりません。
 そう考えてみると、数年前に“鳴り物入り”で登場した件(くだん)の『MaaS』もまた、「都市の二酸化炭素排出量を抑え、駐車場不足・渋滞を緩和し、高齢ドライバーの事故を低減し、有機的・効率的に公共交通を利用しうる」という理想のもと構想された『方程式の解』は、現実的には唯一無二の正解だったとは言いがたかった(たとえば、コロナ禍で自家用車の価値が見直されてきていること等…)としても責められるべきではなく、今後、定着するためには数次の試行錯誤=スクラップ&ビルド(あるいは、一層のパラダイムシフト)が求められていくのだと思います。そしてこのことは、『ドローン社会の実現/空陸双方の交通概念の普及』についてもまた、同様なのかもしれません。

 トヨタ自動車の豊田章男社長は、今般のコロナ禍によるモビリティ産業における壊滅的なダメージについて、「今の状況はボクシングでいう、“クリンチ”を強いられている状態であり、攻撃を受け続けている状態で、致命傷を受けたら終わってしまうような厳しい状況にある。しかし、そのさなかでも私たちにはできることがあり、それは、体力を温存し、相手を観察することだ」と語りました。むろん、このことは、自動車産業だけにあてはまることではないのでしょう。
 それゆえ…。いま私たちがなすべきは、必死に耐え、「沈思黙考」し、きたる攻勢のタイミングに発揮される「熟慮断行」の基礎になるような蓄積を高めていくことにこそある、と信じ生きていくことなのだと思っています。